水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル

~本を読んだ人も読んでいない人も、水浸法の人もそうでない人も~

『水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル』中外医学社より好評発売中。
本はマニュアル本ですので「なぜそうするか?」より「なにをするか?」の方に力点がおかれています。
このブログでは本を補完するため理論的な面を詳しく説明します。

This page is supported by NPO 日本内視鏡協会

今日クリニックに見学の先生が来られました。新宿で開業されていて大腸内視鏡経験は数千件だそうです。私の本を読んでいて、かなり正確に理解していました。その先生が横行結腸の挿入について聞いてきました。
『私は横行結腸は中央部まで押してダウンアングルで中央部に引っ掛けて、その後空気を抜きながら引いて肝湾曲をアップで越えていますが、間違いですか?』
横行結腸は一平面上になく逆αに捻れていることが多いです。横行結腸前半はまっすぐ押して、後半は左回転しながら引いくと捻れが解除されます。その分スコープはまっすぐになり、先端は肝湾曲に届きやすくなります。左に90度回しますのでダウンアングルはレフトアングルに移行します。これをダウンからレフトへのアングルチェンジといいます。このとき肝湾曲はアップではなくライトアングルで越えることになります。水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.121
『間違いではありません。横行結腸後半でアングルチェンジをしなくても肝湾曲に届くことはあるかも知れません。ですがアングルチェンジをした方が届く確率は上がります。つまり横行結腸のプル法の成功率を上げるために私は肝湾曲をライトで越えています。』
7人全員を無麻酔・無痛で挿入したのを見て「私も水浸法をやってみる」といってポンプを1台買って帰られました。

『今日の症例は6分で挿入できました!』
ショートメールに報告が来ました。今年5月に本を読んで、大腸内視鏡を教えて欲しいといって来た女医さんからです。胃カメラ経験はありますが大腸内視鏡経験がない人でした。京都科学のコロンモデルを買ったというので、私の持っている高研のコロンモデルを貸してあげました。自分が勤務するクリニックで毎日練習し、私の内視鏡を毎週見学すること3ヶ月、かなり上達したので少しずつ人で始めました。

最初の2例は私がクリニックに行き、指導しました。その後今日までに自分一人で10例の症例を実施したそうです。10例全員が盲腸まで挿入して、その挿入時間は40分、30分、30分、30分、30分、30分、10分、10分、8分、6分だったそうです。7例目の10分の時に何かコツのようなものをつかんだのではないかと思います。
『ある程度症例を選んで検査したようですので、今後困難症例に出くわすこともあると思います。上手くいっても慢心せず、上手くいかなくても音を上げず、地道に継続してください。』

『小生、後藤Drの講習を受け、自身のクリニックにて水浸法CSの導入を試みた者だが、結果的には、水浸法における水の濁りと気泡の問題が解決できず、導入を断念した。‘無痛CS’を目指すなら、たとえば無送気軸保持短縮挿入法等の方が優れていると考えた。』
せっかく私の講習を受けていただいたのにお役に立てなくて申し訳ありません。

1.ポンプは使われてますでしょうか?
もともと水浸法(無送気・送水法)は前処置不良例の挿入を容易にするために無送気法(無送気・無送水法)から生まれたものでした。ですから水浸法は無送気法より水の濁りに対して強いと思います。ポンプを使った水浸法なら濁った水を吸ってきれいな水に入れ替えて、多少前処置が悪くても検査ができます。また、ワンパターンメソッドでは多少濁っていて前が見えにくくても管腔の見えてくる方向はあらかじめ予想できます。水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.153

2.空気は完全に吸引されてますでしょうか?
気泡は空気を完全に吸引すれば無くなります。空気を吸引するのに時間はかかりません。鉗子チャンネルに空気が残っていたらそのあと水を入れると空気が元に戻るので空気を完全に吸ったあとは1秒間水を吸って鉗子チャンネル内の空気を水に置き換えるのがコツです。水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.82

3.下剤はマグコロールを使われてますでしょうか?
下剤がニフレックだと腸内に細かい泡が出やすいです。マグコロールなら出ません。さすがの腸内細菌もマグネシウムは分解できないからです。

水浸法は苦痛の無さと挿入の早さを兼ね備えたすぐれた挿入法です。導入にあたっていくつかの問題は伴うかも知れませんがそのほとんどは解決可能ですので、断念されたのはとても残念に思います。

↑このページのトップヘ