水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル

~本を読んだ人も読んでいない人も、水浸法の人もそうでない人も~

『水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル』中外医学社より好評発売中。
本はマニュアル本ですので「なぜそうするか?」より「なにをするか?」の方に力点がおかれています。
このブログでは本を補完するため理論的な面を詳しく説明します。

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2016年07月

Q.先生にお聞きしたいのですが、脾湾曲部での横行結腸のループ解除のコツってありますか?本に載ってますかね?PCFスコープで脾湾曲から押しても伸びて、上目に襞が見えていて解除できず、時間がかかりすぎて痛がって途中で中止しました。pushで脾湾曲だけステッキで伸ばしていたんだと思います。反省です。
A.質問の内容がわかりにくいのですが、脾湾曲でステッキになって押しても進まないのでしょうか?そのときに作るのはS状結腸のたわみやループです。硬度を上げて、下腹部圧迫を加え、斜め30度に押します。少し右にトルクをかけながら押すと上手くいくこともあります。それでダメなら右側臥位に体位変換します。この時も下から上に30度角度をつけます。おへその下をグー圧迫することもあります。

そうではなくて脾湾曲を少し進んだが横行結腸がはじめから長くて逆αループを作っている人のことでしょうか?この場合は横行結腸中央部が下に見えてこず、横行結腸がずっと右上に見えてくることからわかります。そのまま押していくとスコープもループを作ります。細いスコープなら痛みもなく肝湾曲に届きますのでそこで逆αループ解除します。つまり横行結腸のプッシュ法です。

横行結腸がはじめから長くて逆αループを作っている人をプル法でやることを聞きたいのでしょうか?①10年前は上に行く腸を左手6時までレフトローテーションして無理矢理下に持ってきてダウンアングルでかけてあとはいつも通りにしていました。②5年前はアップアングルでライトターンショートニングして一度脾弯まで戻りループを解除して腸をコロンモデル形に近づけて再挿入していました。③現在はT前半でレフトターンダウンプルで小さいねじれ解除を繰り返してループ解除しています。本には③の方法が記載されています。水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.122
高研のコロンモデルⅠ-Bタイプでは①と②の方法が練習できます。高研のコロンモデルで横行結腸にあらかじめ逆αループを作った状態で練習してください。

メールで質問が来ました。
Q.先生、少し教えてください。始め左への回転、左左左と進むタイプ、Sの過長タイプと思いますが、難儀する事が多いように思います。何とか右に移行しても、なかなか厳しい事が多いです。pushでうまくかわせれば良いのですが、痛みが強ければお手上げです。何か少しでも良い方法はありますか。教えて頂ければ幸いです。
A.直腸の左回転は左手7時半まで回します。そこで左に行く襞をレフトアングルで先端フックして引くと右に回ります。真右に来たところで引くのを止めてライトアングルで越えます。もし引きすぎて真下まで回ったら少し戻したら真右に来ます。腸が短ければ一発できまりますが、長ければ2~3回繰り返します。「左フック→引く→右回し→ライトアングルで越える」の繰り返しでSを短縮します。最後の「ライトアングルで越える」のところは少しテクニックが要求されます。コロンモデルでSD越えを練習した人なら越えられるはずですが、越えられないならそこで押さないで左下腹部圧迫をしてみて下さい。SDが見えてきて左下腹部圧迫してもどうしても届かないときだけプッシュしますがそれまではプッシュは我慢します。水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.107

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水浸法のワンパターンメソッドの説明(図の上にマウスを置くと説明がでます)


ここに説明のテキストが出ます。

水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.69

この記事は私が2001年7月に上梓した一般人向けの本『その便秘こそ大腸ガンの黄信号』(祥伝社)からの抜粋です。昔の記事ですので今の考え方と違うところもありますが、あえて訂正せず原文のままでご紹介します。
 その他の大腸内視鏡検査の事故はどのようなものがあるのでしょうか?
穿孔
出血
麻酔
落下
ガス爆発
機械の故障
鎮痙剤の副作用
 穿孔と出血が2大事故です。
 穿孔はスコープが腸を突き破ることです。挿入時にスコープを押しすぎて破る場合と、ポリープを取るときに焼きすぎて穴があく場合があります。穿孔すると外科的におなかを開けて破れたところを縫います。
 出血はポリープを取った後、傷口から出血します。再び内視鏡をして止血操作をします。
 麻酔事故は、麻酔が効きすぎて呼吸が止まります。麻酔が覚めるまで人工呼吸すればいいのですが、気が付かないと植物人間になったり死にます。
 落下事故は、検査台から落ちることです。高齢者が腕や腰の骨を折ったりします。
 ガス爆発は、ポリープを取るときに火花が腸のガスに引火して腸内で爆発します。びっくりします。
 機械の故障は、カメラが急に見えなくなったり、ポリープを切り取るワイヤーが切れたり、電気メスの電気が流れなくなったりです。
 鎮痙剤の副作用は、薬のアレルギーとか、狭心症発作とか、検査後おしっこが一時的に出なくなり導尿するとかです。
 いろいろ書くと恐ろしいようですが、この中でたまにあるのは出血(2000件に1件)と機械の故障(年に1度)くらいのものです。10000万件やって大事に行った他ものは1例もありませんのでご心配なく。しかし、これらの事故が絶対起きないようにいつも心を新たにしています。
 (私の事故予防法)
穿孔・・・穿孔する前に苦痛がある、苦痛を越えたところに穿孔があるので、もともと苦痛を与えない「水浸法」は穿孔を起こさない。予防法は、苦痛を与えないこと、痛がったときはすぐに中止すること。
出血・・・ポリープを取った人ほぼ全例にあらかじめ止血処置をしておく。「転ばぬ先の杖」
麻酔・・・かけなくても痛くないので、全くかけないか、かけてもわずかにしておく。
落下・・・ベッドの前後に必ず人がいるようにする。
ガス爆発・・・「水浸法」では挿入時にガスをすべて抜く。
機械の故障・・・日頃の手入れ。臨床工学士さん、ご苦労さん。
鎮痙剤の副作用・・・注射前のチェック。看護婦さん、ご苦労さん。
 ずらっと並べると怖くなってきます。たしかに大腸内視鏡事故は胃カメラに比べ事故率が高いですが、ほとんどは検者の操作の未熟さに起因するもので、ベテランが行えば事故率は胃カメラと変わらないと思います。私が行った検査10000例中大きな事故はなく、出血が5件のみ、その間に見つかった大腸ガンは300例あまり、大腸ガン予防のために、大腸内視鏡検査はリスクが低いわりに効果が高い検査です。
 ベテラン医師ならまず大丈夫でしょう。特に麻酔を使わず、苦痛のない検査をする技術があれば、事故の可能性はきわめて低いと思います。

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