水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル

~本を読んだ人も読んでいない人も、水浸法の人もそうでない人も~

『水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル』中外医学社より好評発売中。
本はマニュアル本ですので「なぜそうするか?」より「なにをするか?」の方に力点がおかれています。
このブログでは本を補完するため理論的な面を詳しく説明します。

This page is supported by NPO 日本内視鏡協会

2016年11月

堤大夢3
堤大夢先生

来年5月から大隅鹿屋病院で大腸内視鏡”水浸法”を修行予定の堤大夢先生は現在コロンモデルでワンパターンメソッドのトレーニング中です。現在勤務の病院に内視鏡がないのでオリンパスの中古の内視鏡光源とプロセッサーと高研のコロンモデルを自分で買って、毎日100回練習しているそうです。

毎日100回!?おそるおそる最速タイムを聞いたら「13秒」と答えました。
以前彼に理論的な最速タイムの予想を聞かれたので「10秒かな?」と答えたら彼はそれに挑戦しているらしいです。動画を撮ったら信用してあげると言ったら送ってきました。

数か月前にIPHONEでとった動画ですので画質が悪いです。
到達時間は13秒です。CF、フードなしです。
4月までにコロンモデルに関しては誰にも負けない無双状態になるよう修練に励みます!
スピードこそ違いますがワンパターンメソッド挿入ですので私のコロンモデル挿入動画と画面の見え方は全く同じです。水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.100

粒良
粒良邦彦先生

歴史的講演から一夜明け、頭の中が大分整理されてきました。田淵先生の最初の1時間半は雑談で重要な話は残りの30分に凝縮されていました。途中で帰った人はもったいないことをしたと思います。

1.田淵正文先生は粒良(つぶら)先生の教えを現在まで忠実に守っていること

 1)空気を入れすぎてはいけません。初心者のうちは空気を全く入れないようにしなさい。
 2)ずーっと押し続けてはいけません。押したり引いたりしてちょっとずつ入れなさい。
 3)腸管をスコープにたぐり寄せて、スコープの横にアコーディオンのように畳みなさい。
 4)腸管の形を常に頭の中でイメージしながら挿入しなさい。
これらすべては粒良先生が指導時によく言われた言葉です。これに田淵先生が発見し、付け加えたことは次のことです。
 5)シリンジで少量の水を入れても構わない。

2.鈴木雄久先生は田淵先生をフルコピーしたが、私はコピーしなかった理由

先輩の山本敬先生(現虎ノ門病院健康管理センター部長)が目黒共済病院を去ったあと、田淵先生はシリンジから水を入れる無送気法を開発し、当時無痛だという評判になりました。粒良先生は私に「田淵先生が面白いことをやっているから目黒共済病院に見学に行って来なさい」とおっしゃいました。1992年のことです。

私と田淵先生は同じ研究室でしたから見学は許されましたが、田淵先生は教えることには興味がなかったようで言葉での説明はありませんでした。腸管壁がいつも画面の目前にあり赤玉寸前で腸管の方向が見えないため、大腸内視鏡経験のない私にはなにをやっているのか全くわかりませんでした。ただそれまで見た方法と全く違う苦痛のない方法だと言うことだけがわかりました。

1994年、私は研修医時代に知り合った1年後輩の鈴木先生に田淵先生の所へ見学に行くように勧め、田淵先生を紹介しました。そのときに田淵先生は昨日講演の最後に見せてくれた1994年作成のビデオを鈴木先生にあげたのです。そのビデオには田淵先生曰く、”一句一句が極めて重要な意味のある”ナレーションが入っていたのです。鈴木先生はそれを擦り切れるまで見て田淵先生をフルコピーしたそうです。

鈴木先生より少し早く田淵先生の所へ行った私はそのビデオをもらわなかったことが私と鈴木先生の決定的な違いを生みました。1994年、私は鹿児島徳洲会病院に行き、高研のコロンモデルⅠ-B型を実験台にして、一度今までのやり方を全て捨てて、スコープの持ち方から科学的で合理的な挿入方法を研究し6ヶ月で独自の挿入法を考えました。それがワンパターンメソッドです。後に私が「大腸内視鏡をワンパターンで挿入する方法を見つけた」と言ったら「ほう、そんなことができるのか?」と田淵先生はとても驚いていました。

また水を積極的に利用するためポンプを開発して1995年に特許を取りました。当時、田淵先生にお送りしましたが当時のポンプは出力が弱いこともあり使用されなかったようです。田淵先生は今でもシリンジを用い手押しで水を入れていますが、昨日「ポンプを使わなかったのは間違いだった」といわれましたのですぐ一台お送りしました。

結局、水浸法は粒良先生が契機を作り、田淵先生が創始し、後藤が完成し命名しました。水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.3
今から思うと当時ビデオをもらわなかったからこそワンパターンメソッドが生み出されたし、教えてもらわなかったからこそ教えることに執心するわけで、改めて『逆境は成長の糧になる』と思いました。

いま、スキルアップ講演「挿入困難の解決」を終わり、帰ってきました。内視鏡の神、田淵正文先生のお話が聞けました。
午後1時5分、5分遅れてやってきた田淵先生は口を合わせたかのように午前に私が言ったのとほとんど同じ事を言われました。同じ5万件の挿入実績なら、言うことも同じなのかと驚きました。もっと驚いたのは田淵先生の口から故・粒良先生のおっしゃった言葉が随所にでてきたことです。田淵先生は内視鏡挿入技術では、師匠の粒良先生を越えましたが、その基本理念は粒良先生の教えのそのままだったことに驚きと感動を覚えました。

今日は若い堤先生が九州から受講しに来ました。コロンモデルを世界最速の13秒で入れる男です。私の技術もいつか若い先生に抜かれます。だけど私の教えを引き継いでくれることが私の誇りです。

今回の講演は講演途中の質問などがあり、最新動画の解説の時間がありませんでした。申し訳ありません。動画解説はこちらにアップしましたのでご覧下さい。
患者さんにあった最適スコープの選択基準表が見にくいとの指摘がありました。こちらにソフト版があります。身長と体重を書き込んで赤いボタンを押せば自動判定してくれます。 水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル pp.94-95

それではさっそく、"神の声"田淵先生の挿入理論をご紹介しましょう。
S状結腸は管腔の方向が見えるからといってそのままフニャーっと押す人が多いですがそれば間違いです。そうすると腸はループを作ってしまいます。便が通ったあとの腸はほとんどストレートなはずですから、上下左右アングルを駆使してちょっと入れては引くの繰り返しによって、スコープの外側にアコーディオンのように腸管をたぐり寄せれば腸は簡単にストレートになります。ちょうどスコープにルーズソックスを穿かせるようなイメージです。

スコープはほとんど同じ場所にあってちっとも進んでいないのに画面ではどんどん前に進むのでこのやり方のコツをつかむとゲームのように面白くてやめられなくなります。

スコープと粘膜は近く、画面の無名溝を見て無名溝に垂直に進めて行きます。S状結腸は右回しで挿入するのは常識ですが横行結腸が左回しで挿入することを知らない人がいます。スコープが体内でどのような形になっているか常にイメージしてください。横行結腸は横隔膜方向に持ってくることを意識して挿入します。

挿入が困難なときは、できるだけ水や空気を抜いて腸管を虚脱させます。また高度癒着の人は小回りのきく細いスコープに変えるのもいいでしょう。

挿入困難は術者もヒートアップします。無理をしないことも大事です。どうしても入らないときは、ちょっとお茶でも飲んで一服して挿入を続けるか撤退するか、また続けるならどうして入らないかを考えます。手を休んでいるあいだに腸が動いて丁度いい具合になることも多いものです。
大腸.comで有名な本郷メディカルクリニック院長の鈴木雄久先生も何百回も見てコツをつかんだという無送気法の動画初めて見せていただきました。田淵先生のブログにアップロードしてくれました。イスに座って画面を見上げながら挿入する姿が鈴木先生のアップロードした動画とそっくりで、鈴木先生が忠実に田淵先生をコピーしたことがよくわかります。鈴木先生は水を入れる代わりにアタッチメントを使用して、辻仲病院勤務時代の1999年に「無送気軸保持短縮法(ストレート法)」として発表しました。せっかくアタッチメントの有用性に気づいたのなら注水とアタッチメントは相乗効果があるので併用すればよかったのに、どうして彼が水を入れるのをやめたのか不思議です。

田淵先生は今まで15万以上のポリープ切除を実施されたそうです。ご自身の大腸も何度もご自身で検査されていてポリープ切除もされていると聞いて、みんなびっくりしていました。やっぱり神でした。

2016/11/11に大隅鹿屋病院で行った症例です。

大腸内視鏡の挿入困難例:メガコロンの94歳男性(12分41秒)

水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.151
この方から事前に手紙を頂いた。入れないわけにはいかない。
 先生には10余年に亘り大隅鹿屋病院に遠路足をお運び頂き有難く存じます。特に私の場合諸先生方に大腸カメラの施術をして頂きましたが、スコープを奥までそう入できず(30~40分途中)中止されました。そこを先生に技量をはっき下さいまして本日を待つ事約20日間、本当に長い毎日でした何卒よろしくお願い申し上げます。一番最初、先生が無事奥迄、そう入して頂いた時、スタッフの方達が、大きな声をあげて、喜んで頂いた事を覚えております。
 本日の結果を老妻が心配しながら待っております。来る18日が95才の誕生を迎えます。みんなが長寿を願ってくれています。私事ですが娘婿が此の度瑞宝単光章を受け、伝達式(陛下の謁見あり)に明日夫婦上京いたします。軍隊生活8年内シベリア2年、生死の境を越えて来ました。病気には勝てないものですね。無事であることを念じ先生によろしくお願いします。(原文ママ)

今教えている先生のコロンモデル検定をしました。
挿入はできたのですが横行結腸のところで1分くらい時間がかかりました。
その後患者さんでやるとやっぱりコロンモデルとおなじ横行結腸のところで10分くらい時間がかかってしまいました。
コロンモデル10倍則の通り、コロンモデルで少しでも課題があると人間では10倍に増幅されて返ってきます。
コロンモデルを完璧にしておかなければいけないのはこのためです。
水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.71

よく見るとアングル操作のかわりにローテーション操作を使っていました。
アングル操作が苦手で少し甘く、その代わりにローテーションをかけすぎていたのでした。
アングル操作のロックトゥーロックの練習をするように言いました。
水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル p.36

↑このページのトップヘ