はじめに:
大腸内視鏡は患者さんにとって苦痛があり、術者にとって習得しにくいものである。ところが挿入時に一切空気を入れることなく、少量の水を入れる「水浸法」は患者さんにとっては苦痛が少なく、術者にとって習得しやすいという特徴がある。
患者さんにとって苦痛が少ないのは、水を入れることによってスコープの滑りが良くなること、腸管内の水によってスコープに浮力がかかりスコープが軽くなること、スコープを押す力が500gw以下と少ないので腸管を伸ばさないこと、腸管が伸びないので容易に短縮できること、入れる水の量が200mlと少ないので腹満感がないことなどの理由による。
術者にとって習得しやすいのは、水浸法ではワンパターンで挿入することができるからである。水浸法では押さないため、ループを作らず腸の捻れを短縮して、早期に直線化するため比較的簡単な練習用のコロンモデルと同じ挿入法が人間でも通用する。すでに50人以上の医師に指導した経験があり、ワンパターンメソッドの習得法は確立されている。
目的と方法:
今回、上下部とも内視鏡経験のない若い医師が、水浸法とワンパターンメソッドによる大腸内視鏡を短期間で修得したのでその報告をする。
堤大夢先生が水浸法の大腸内視鏡を習いたいと言ってきたのは、平成28年のことであった。すぐに教える環境が無かったため、当面はコロンモデルでの自習となった。毎日のコロンモデル練習で練習開始3ヶ月後には一日100回、最速13秒で挿入するまでに至った。1)このタイムは私の知る限り最速のもので、私よりも7秒も早い記録である。人間での平均挿入時間はコロンモデル挿入時間の10倍であるという経験則2)があり、それによると彼の人での平均挿入時間は2分10秒という計算になった。
2017年8月に湘南厚木病院で人での研修を開始した。私が直接指導したのはこの1ヶ月間のみである。9月からは大隅鹿屋病院に赴任し、再び一人で平日ほぼ毎日の内視鏡検査を実践した。2017年9月から2018年4月までの堤先生の大腸内視鏡挿入時間の変化を表にしたものが表1であり、それをグラフ化したのものが図1である。
動画1.堤先生コロンモデル13秒
結果:
「8月、最初の1ヶ月は湘南厚木病院で後藤先生の直接指導を受けた。この時点で大腸は30例ほど無線教習を受けた。後藤先生が無線で指導してくれるのでほとんど全員挿入できた。9月、大隅鹿屋病院に赴任し挿入できない例は途中でベテラン医師に代わってもらいながら慎重に診療開始した。10月、100例を突破し挿入できない例は少なくなった。しかしまだ簡単な人はすぐに入るが難しい人は時間がかかる。11月、200例近くに達し挿入できない例はほとんど無くなった。以前より痛くなく挿入できるようになり患者さんに感謝されるようになった。」(堤)と月毎に上達した。
2017年9月~2018年4月の6ヶ月間に総件数433人の大腸内視鏡検査が行われた。2017年9月は平均挿入時間18分、標準偏差12分であったが、2018年4月には平均挿入時間8分、標準偏差5分と2倍以上の早さになった。「現在は痛がる人もほとんどいなくなり、挿入に関して自信がついた。今後は10分以上かかる症例を少なくできるように工夫していきたい。」(堤)というレベルに到達した。私は平均挿入時間5分、標準偏差3分なので、今後もまだまだ上達すると思われるが、通常大腸内視鏡のマスターには数年もの期間を要することを考えると非常に早い習得だといえる。
考察:
ワンパターンメソッドを実践するにあたって、まずスコープを持つ左手位置からスコープ先端の位置がわかる独特のスコープハンドリングテクニックを学ぶ3)。次に、右手人差し指をスコープに見立てるシュミレーション法でワンパターンメソッドの手順を学ぶ4)5)。その後、高研のコロンモデルⅠ-B型で挿入時間1分を切るまで練習しワンパターンメソッドを体得する。ここまでが最初の1ヶ月である。
2ヶ月目からは人でのトレーニングになる。コロンモデルは送気法のモデルのため、はじめは水浸法では腸管が虚脱していて、管腔の方向がつかみにくい。そのため、最初の数十例ほどは無線マイクと無線イヤフォンを使って指導医による無線教習をする。水浸法は入れる水の量が少ないため管腔が虚脱している。慣れないと管腔の方向が見つけられないので、人はコロンモデルとは別だという誤った認識を持ってしまうことがあり、それを避けるためである。無名溝などを参考に方向を見つけるのに慣れたら挿入速度も早くなり、3ヶ月の研修終了時に人で100例ほど経験した頃には、人もコロンモデルと同じだという印象に変わる。最終的には人での挿入時間はコロンモデル挿入時間の10倍程度に落ち着く。
ワンパターンメソッドは50人以上の経験により教授法が確立されていて、だれもが短期間に習得できるものと思われた。水浸法は苦痛が少ないが、ワンパターンで挿入するため習得も容易である。今回、堤先生を指導してそのことが確認された。
おわりに:
最後になりますが、東京都、神奈川県、奈良県、兵庫県、鹿児島県内で水浸法とワンパターンメソッドの見学が可能です。見学のご希望とご質問はこちらにメールしてください。
文献:
1)YouTube動画,堤先生コロンモデル13秒,https://www.youtube.com/watch?v=okem2zzm8R0
2)後藤利夫:水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル,中外医学社,東京都新宿区,2016、p.71 コロンモデル10倍則
3)同上,p.42 2倍進角の法則
4) 同上,p.65 表16-1 ワンパターンメソッド部位別説明
5) 同上,p.69 表17-2 指内視鏡によるワンパターンメソッドのまとめ
※この記事に関連する堤先生の以前の記事があります。
→堤先生の2016年11月28日の記事
→堤先生の2017年08月31日の記事
大腸内視鏡は患者さんにとって苦痛があり、術者にとって習得しにくいものである。ところが挿入時に一切空気を入れることなく、少量の水を入れる「水浸法」は患者さんにとっては苦痛が少なく、術者にとって習得しやすいという特徴がある。
患者さんにとって苦痛が少ないのは、水を入れることによってスコープの滑りが良くなること、腸管内の水によってスコープに浮力がかかりスコープが軽くなること、スコープを押す力が500gw以下と少ないので腸管を伸ばさないこと、腸管が伸びないので容易に短縮できること、入れる水の量が200mlと少ないので腹満感がないことなどの理由による。
術者にとって習得しやすいのは、水浸法ではワンパターンで挿入することができるからである。水浸法では押さないため、ループを作らず腸の捻れを短縮して、早期に直線化するため比較的簡単な練習用のコロンモデルと同じ挿入法が人間でも通用する。すでに50人以上の医師に指導した経験があり、ワンパターンメソッドの習得法は確立されている。
目的と方法:
今回、上下部とも内視鏡経験のない若い医師が、水浸法とワンパターンメソッドによる大腸内視鏡を短期間で修得したのでその報告をする。
堤大夢先生が水浸法の大腸内視鏡を習いたいと言ってきたのは、平成28年のことであった。すぐに教える環境が無かったため、当面はコロンモデルでの自習となった。毎日のコロンモデル練習で練習開始3ヶ月後には一日100回、最速13秒で挿入するまでに至った。1)このタイムは私の知る限り最速のもので、私よりも7秒も早い記録である。人間での平均挿入時間はコロンモデル挿入時間の10倍であるという経験則2)があり、それによると彼の人での平均挿入時間は2分10秒という計算になった。
2017年8月に湘南厚木病院で人での研修を開始した。私が直接指導したのはこの1ヶ月間のみである。9月からは大隅鹿屋病院に赴任し、再び一人で平日ほぼ毎日の内視鏡検査を実践した。2017年9月から2018年4月までの堤先生の大腸内視鏡挿入時間の変化を表にしたものが表1であり、それをグラフ化したのものが図1である。
結果:
「8月、最初の1ヶ月は湘南厚木病院で後藤先生の直接指導を受けた。この時点で大腸は30例ほど無線教習を受けた。後藤先生が無線で指導してくれるのでほとんど全員挿入できた。9月、大隅鹿屋病院に赴任し挿入できない例は途中でベテラン医師に代わってもらいながら慎重に診療開始した。10月、100例を突破し挿入できない例は少なくなった。しかしまだ簡単な人はすぐに入るが難しい人は時間がかかる。11月、200例近くに達し挿入できない例はほとんど無くなった。以前より痛くなく挿入できるようになり患者さんに感謝されるようになった。」(堤)と月毎に上達した。
2017年9月~2018年4月の6ヶ月間に総件数433人の大腸内視鏡検査が行われた。2017年9月は平均挿入時間18分、標準偏差12分であったが、2018年4月には平均挿入時間8分、標準偏差5分と2倍以上の早さになった。「現在は痛がる人もほとんどいなくなり、挿入に関して自信がついた。今後は10分以上かかる症例を少なくできるように工夫していきたい。」(堤)というレベルに到達した。私は平均挿入時間5分、標準偏差3分なので、今後もまだまだ上達すると思われるが、通常大腸内視鏡のマスターには数年もの期間を要することを考えると非常に早い習得だといえる。
考察:
ワンパターンメソッドを実践するにあたって、まずスコープを持つ左手位置からスコープ先端の位置がわかる独特のスコープハンドリングテクニックを学ぶ3)。次に、右手人差し指をスコープに見立てるシュミレーション法でワンパターンメソッドの手順を学ぶ4)5)。その後、高研のコロンモデルⅠ-B型で挿入時間1分を切るまで練習しワンパターンメソッドを体得する。ここまでが最初の1ヶ月である。
2ヶ月目からは人でのトレーニングになる。コロンモデルは送気法のモデルのため、はじめは水浸法では腸管が虚脱していて、管腔の方向がつかみにくい。そのため、最初の数十例ほどは無線マイクと無線イヤフォンを使って指導医による無線教習をする。水浸法は入れる水の量が少ないため管腔が虚脱している。慣れないと管腔の方向が見つけられないので、人はコロンモデルとは別だという誤った認識を持ってしまうことがあり、それを避けるためである。無名溝などを参考に方向を見つけるのに慣れたら挿入速度も早くなり、3ヶ月の研修終了時に人で100例ほど経験した頃には、人もコロンモデルと同じだという印象に変わる。最終的には人での挿入時間はコロンモデル挿入時間の10倍程度に落ち着く。
ワンパターンメソッドは50人以上の経験により教授法が確立されていて、だれもが短期間に習得できるものと思われた。水浸法は苦痛が少ないが、ワンパターンで挿入するため習得も容易である。今回、堤先生を指導してそのことが確認された。
おわりに:
最後になりますが、東京都、神奈川県、奈良県、兵庫県、鹿児島県内で水浸法とワンパターンメソッドの見学が可能です。見学のご希望とご質問はこちらにメールしてください。
文献:
1)YouTube動画,堤先生コロンモデル13秒,https://www.youtube.com/watch?v=okem2zzm8R0
2)後藤利夫:水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル,中外医学社,東京都新宿区,2016、p.71 コロンモデル10倍則
3)同上,p.42 2倍進角の法則
4) 同上,p.65 表16-1 ワンパターンメソッド部位別説明
5) 同上,p.69 表17-2 指内視鏡によるワンパターンメソッドのまとめ
※この記事に関連する堤先生の以前の記事があります。
→堤先生の2016年11月28日の記事
→堤先生の2017年08月31日の記事