2022年4月19日 厚木市の仁厚会病院で医師向けに水浸法の説明会を行いました。
水浸法とは?
苦痛のない内視鏡
大腸内視鏡は苦痛を伴います。大腸がんの死亡者は胃がんと同じ5万人ですが、胃カメラは50%、大腸内視鏡は25%と受診率は半分です。
その理由は、スコープがたわんで進まなくなり、強く押されるので腸が引き伸ばされるためです。腸は閾値が有り、ある程度まで引き伸ばされても痛みを感じませんが、閾値以上に引き伸ばされると、激痛を感じます。
水浸法は、挿入時に空気を入れる代わりに水を入れます。入れる量はわずかで、腸管はほとんど虚脱したまま挿入します。したがって内視鏡室が水で汚れることはありません。
水が入ることによってスコープの滑りが良くなり、弱い力で挿入できます。また腸がねじれてループを作ると痛いので、ループ解除と言って盲腸に到達する前のどこかで腸のねじれを取る必要があるのですが、腸管が虚脱しているとそれが容易で、ループを作る前の早い段階で行えます。
そのため、麻酔をしなくてもほどんど全く痛みがないのが水浸法の特徴です。私が無麻酔でやって痛がる患者さんは1%くらいです。麻酔を迷っている人も、最初無麻酔でスタートしてもし痛かったら麻酔を使いましょうと言ってスタートして実際に麻酔を使うことはほとんどありません。もちろん麻酔希望者には最初から麻酔を使います。
痛みがないということは麻酔をかけるときにも麻酔量が少なくてすみ、麻酔事故が起きにくいとか、痛みがないほど腸管が引き伸ばされていないので当然穿孔事故も起きにくいという特徴があります。
他にも水浸法のメリットはあります。
●挿入困難例に強い
腹部の手術などで腸に癒着がある人は屈曲の強い場所があり、通常の太さのスコープが入らないことがあります。そのとき、特別に細いスコープがあると挿入できるのですが一般の病医院にはありません。代わりに胃カメラスコープを使って盲腸まで挿入できます。胃カメラスコープは細くてアングルもよく掛かるのですが長さが大腸スコープより短くてループを作ると長さが足らなくなり盲腸まで挿入できませんが、水浸法ならループを作らないで挿入しますので、盲腸まで挿入できます。
●前処置不良例に強い
下剤を飲めない人や飲むと嘔吐する人は前処置ができず、検査ができないことがあります。そのような前処置不良例でも水浸法なら、腸管に水の入れ出しを行いながら、すなわち前処置を行いながら検査できるので盲腸まで到達できることが多いです。
●挿入時間が短い
水浸法は一見動きはスローモーションのようにゆっくりです。グイッと押してループを作ってグルリとループを解除する従来の方法は決まれば早いのですが、ループがうまく解除できないとドツボにハマります。水浸法ではループを作らないように慎重に挿入しますので、一見遅いようですが10分以上の遅延例が少ないため、平均挿入時間は5分を切ります。
●検査件数が多い
大腸内視鏡は一般に1人の術者が午後に5人程度の患者さんを見ますが、水浸法は術者の疲れも少なく、私は若いときには12時から18時までの6時間に25人の大腸内視鏡検査を行っていました。
●習得しやすい
水浸法は内視鏡医なら誰でもすぐに真似ができます。今まで入れていた空気の代わりにフットスイッチ式ポンプまたはウォータージェットを使って水を入れるだけです。コツは管腔のオリエンテーションがわからないときだけ少し入れることです。これだけで痛みはかなり減ります。しかし本格的に水浸法を学ぶなら、ワンパターンメソッドの練習が必要です。ワンパターンメソッドとは水浸法に最適化した挿入法でコロンモデルを使って練習します。Ⅰヶ月で1000回ほど練習するとコロンモデルを1分以内で挿入できるようになります。そうすると、人間でやっても平均10分以内で挿入できます。コロンモデルを30秒で挿入できれば人で平均5分で挿入できます。
●下剤を飲む苦痛もない
大腸内視鏡は検査自体も苦しいですが、下剤を飲むのも大変です。その苦痛を取り除くために下剤を飲まない大腸内視鏡を考えました。
午前の胃カメラ終了時に十二指腸から下剤を内視鏡の鉗子口からポンプを使って入れます。下剤は同じ容量でも早く飲めば早く便がきれいになりますが、3分で入れますので2時間位できれいになり、大腸検査が行なえます。胃カメラ時にすぐ覚めるプロポフォール麻酔を使うので、誤嚥の心配なく実施できるようになりました。