いま、スキルアップ講演「挿入困難の解決」を終わり、帰ってきました。内視鏡の神、田淵正文先生のお話が聞けました。
午後1時5分、5分遅れてやってきた田淵先生は口を合わせたかのように午前に私が言ったのとほとんど同じ事を言われました。同じ5万件の挿入実績なら、言うことも同じなのかと驚きました。もっと驚いたのは田淵先生の口から故・粒良先生のおっしゃった言葉が随所にでてきたことです。田淵先生は内視鏡挿入技術では、師匠の粒良先生を越えましたが、その基本理念は粒良先生の教えのそのままだったことに驚きと感動を覚えました。

今日は若い堤先生が九州から受講しに来ました。コロンモデルを世界最速の13秒で入れる男です。私の技術もいつか若い先生に抜かれます。だけど私の教えを引き継いでくれることが私の誇りです。

今回の講演は講演途中の質問などがあり、最新動画の解説の時間がありませんでした。申し訳ありません。動画解説はこちらにアップしましたのでご覧下さい。
患者さんにあった最適スコープの選択基準表が見にくいとの指摘がありました。こちらにソフト版があります。身長と体重を書き込んで赤いボタンを押せば自動判定してくれます。 水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル pp.94-95

それではさっそく、"神の声"田淵先生の挿入理論をご紹介しましょう。
S状結腸は管腔の方向が見えるからといってそのままフニャーっと押す人が多いですがそれば間違いです。そうすると腸はループを作ってしまいます。便が通ったあとの腸はほとんどストレートなはずですから、上下左右アングルを駆使してちょっと入れては引くの繰り返しによって、スコープの外側にアコーディオンのように腸管をたぐり寄せれば腸は簡単にストレートになります。ちょうどスコープにルーズソックスを穿かせるようなイメージです。

スコープはほとんど同じ場所にあってちっとも進んでいないのに画面ではどんどん前に進むのでこのやり方のコツをつかむとゲームのように面白くてやめられなくなります。

スコープと粘膜は近く、画面の無名溝を見て無名溝に垂直に進めて行きます。S状結腸は右回しで挿入するのは常識ですが横行結腸が左回しで挿入することを知らない人がいます。スコープが体内でどのような形になっているか常にイメージしてください。横行結腸は横隔膜方向に持ってくることを意識して挿入します。

挿入が困難なときは、できるだけ水や空気を抜いて腸管を虚脱させます。また高度癒着の人は小回りのきく細いスコープに変えるのもいいでしょう。

挿入困難は術者もヒートアップします。無理をしないことも大事です。どうしても入らないときは、ちょっとお茶でも飲んで一服して挿入を続けるか撤退するか、また続けるならどうして入らないかを考えます。手を休んでいるあいだに腸が動いて丁度いい具合になることも多いものです。
大腸.comで有名な本郷メディカルクリニック院長の鈴木雄久先生も何百回も見てコツをつかんだという無送気法の動画初めて見せていただきました。田淵先生のブログにアップロードしてくれました。イスに座って画面を見上げながら挿入する姿が鈴木先生のアップロードした動画とそっくりで、鈴木先生が忠実に田淵先生をコピーしたことがよくわかります。鈴木先生は水を入れる代わりにアタッチメントを使用して、辻仲病院勤務時代の1999年に「無送気軸保持短縮法(ストレート法)」として発表しました。せっかくアタッチメントの有用性に気づいたのなら注水とアタッチメントは相乗効果があるので併用すればよかったのに、どうして彼が水を入れるのをやめたのか不思議です。

田淵先生は今まで15万以上のポリープ切除を実施されたそうです。ご自身の大腸も何度もご自身で検査されていてポリープ切除もされていると聞いて、みんなびっくりしていました。やっぱり神でした。